[25] By 名無し ID:
>>24続
「その杖はね、トネリコの木で作られているの」
えっと思わず驚きの声をあげるANJI。
――トネリコ、それは黒魔導を学ぶ者なら知っていて当然の木。
黒魔道師は、神官が断罪に使う様な金属製の杖や槌ではなく、魔力を溜め込み易く、又魔力を増幅しやすい木製の杖を使うのが一般的だ。
特にトネリコで作られた杖は、非常に性能が高く、希少性も高い。
それ故、トネリコの杖は常に高値で取引されており、一般に出回る事は殆ど無い。
驚きを隠せないANJIを余所に、話を続けるYUMIY。
「それにその杖はね、私の家に代々受継がれてきた由緒ある杖なの。なんでも、『悲劇の聖戦』以前に存在した、世界を支えているとまで言われた程の大きなトネリコの木の一部で作られたモノらしいわ」
その木についての話を以前聞いた事がある。
普通ならば、様々なモノから生み出される普遍の力『オウラ』は、湧いては流れ落ちてゆく水の様に、止まる事なく世界を巡り、消えてゆくモノだ。
しかしそのトネリコの木は、その大きさ故に、本来なら止まる事なく流れ消えてゆくオウラを大量に溜め込む事が出来た。
そして、そのトネリコのお陰で世界は常にオウラに満たされている状態を保ち続けていた。
『悲劇の聖戦』が起こるまでは。
「――つまり、世界の全てのオウラを集約したトネリコの木だからこそ、アンタに様々な事を教えたり、持ち主を選んだりするって訳…って聞いてる?」
自慢気に鼻を鳴していたYUMIYだが、ANJIが少し上の空なのに気付くと直ぐさま不機嫌そうな顔になる。
想像よりもスケールの大きな話に少しあてられた様な心地がするANJI。
「…本当かどうかは別として、何で僕がそんな杖に気に入られたんだよ」
率直な疑問を投げ掛ける事しか出来なかった。
するとYUMIYも、腰に拳を当て、得心していないといった面持ちをしていた。
「そんなの私にだって分からないわよ」
諦めの混った深い溜息をつく。
「そんな事より、私の代りの杖は?まさか安モンじゃないでしょうね?」
話題が尽きた所で本題へと戻るYUMIYだが
ギクッ
打ち捨てられていた一人の男が明らかな動揺を見せていた。
「……」
無言で笑顔浮かべるYUMIY。
目は笑っていなかった。
>>26へ
2009-04-07 17:02:00
[返信] [編集] [報告]